腕時計(うでどけい)
2025年12月01日 · 1563 字
第一段
海外出張中に、原因不明の飛行機事故で主人が亡くなり、もうすぐ3年になる。
丈夫在国外出差期间,因一起原因不明的飞机事故去世,转眼就快满三年了。
口数のあまり多くなかった主人が、「定年になったらいなかに引っ込んで、時計とは縁のない生活をする」とくり返し言っていたのが、今も耳に残っている。
平时话不太多的丈夫,曾经反复说过:「等退休以后,就搬到乡下去隐居,过一种与钟表无缘的生活。」这句话至今仍然留在我的耳边。
時間に追われる生活をきらっていた主人が、「空港で新しいのを買うから」と言って腕時計を残して行った。
讨厌被时间追赶着生活的丈夫,说了一句「我会在机场买一块新的」,就把手表留了下来。
何ももどって来なかった事故の思い出として、それが唯一残った。
作为那场事故留下的回忆,什么都没有回来,唯独那块手表留了下来。
第二段
事故を忘れようと、主人を亡くしてからしばらくは、外出するときや仕事に行くときに時計を持たなかった。
为了忘记那场事故,在丈夫去世后的一段时间里,我外出或者去上班时都不带手表。
初めは不便に感じることもあったが、時間が経つにつれて、不便に思うどころか、かえって気持ちに余裕が持てるようになった。
刚开始有时也会觉得不方便,但随着时间的推移,我不仅不再觉得不方便,反而逐渐变得心情从容起来。
歩きながら「だいじょうぶかな、間に合うかな」と何度も時計を見たり、電車を待ちながらいらいらすることは、もうすっかりなくなった。
我已经完全不会再一边走路一边反复看手表,想着「来得及吗?没问题吧?」,也不会再一边等电车一边焦躁不安了。
第三段
不思議なことに、家の中でも、あまり時計を見なくなった。
不可思议的是,即使在家里,我也不怎么查看时间了。
時計を見ないからといって、時間を意識しないわけではない。
虽然不看手表,但这并不意味着我完全没有时间观念。
今だいたい何時ごろだろうとか、何分経っただろうと見当をつけて生活している。
我会大致估算现在几点了,或者已经过去了多少分钟,并以此安排自己的生活。
それが大きく外れることはない。
而且这种估算不会出现太大的偏差。
第四段
以前は、時計を見るたびに「あと何分」と時間に追われて生活していた。
以前,每次看手表时,我都会想着「还剩几分钟」,一直过着被时间追赶的生活。
それが、「そろそろだな」と腰を上げ、出かける支度や食事の準備に取りかかる生活に変わってきた。
如今,我的生活方式逐渐变成了:觉得「差不多该行动了」,便起身开始准备出门,或者着手准备饭菜。
第五段
主人は出発前にどんな時計を買ったのだろうか。
丈夫出发之前,究竟买了一块什么样的手表呢?
いつもの調子で、機内で何度も何度も時計を見ているときに、事故が起こったのではないだろうか。
他是不是像往常一样,在飞机上一次又一次地看着手表时,事故就发生了呢?
私は今、「いなかに引っ込みはしなかったけれど、時計のない生活に慣れて、時間に振り回されず、『時計と縁のない生活』ができていますよ」と、ときどき主人の腕時計に語りかけている。
如今,我有时会对着丈夫留下的手表说道:「虽然我没有搬到乡下隐居,但我已经习惯了没有手表的生活,不再被时间牵着鼻子走,已经能够过上与你所说的那种『与钟表无缘的生活』了哦。」